前回のレポート (調査結果から見る「大学教育の課題」と「教育改革の効果」)」では、大学の教育現場において「学生のレベルのバラつき」や「退学」が課題となっており、それに対し『基礎・基本の徹底』や『学生の能動的な参加』といった教育改革の取組が一定の効果があることをみてきました。
そこで、今回は、どのような大学が、教育改革を推進させているのかについてみていきたいと思います。
「大学教育改革の実態の把握及び分析等に関する調査研究」のうち、「第8章 教育の内部質保証に影響を与える教育改革要因に関する考察(山本)」では、大学教育改革の取組と、教育改善状況の関係について分析している。
教育改善状況を測る指標として、公益財団法人大学基準協会の大学評価結果を用いている。2012年度から2014年度までに大学基準協会から大学評価を受 審した大学(118大学)の評価(認証評価)結果を、「大学に対する提言(長所、改善事項)」の個数によって大学を4グループ(優等生、個性派、問題児、 無気力)に分けている。
なお、長所は“教育効果を上げている取組みで、認定にあたりアウトカム(教育効果や学習成果)をエビデンスで示したもの”、改善点は“法令要件に抵触している事項”である。 優等生、個性派、問題児、無気力の4グループ別に、教育改革の取組の実施率を分析している。その結果が、図1となっている。
長所が多いグループ(優等生、個性派)は、「教養教育と専門教育の連携」「教える内容の重複を避けるための教員間の授業内容の調整」「学部の壁を越えた充実した教育課程の構築」などの教員間・学部間のコミュニケーションが必要となる取組を行っていた。
すなわち、教員間・学部間のコミュニケーションを行うことが、改革の効果を高めているといえる。
次に、教育改革の大きな柱であり、教員間の教育に関するコミュニケーションの場でもあるFD活動について、どのような体制での実施が効果的かについてみてみよう。
「大学教員の教育活動・教育能力の評価の在り方に関する調査研究」では、教員間の交流が伴うFD研修(意見交換会やワークショップ)について、実施回数とFD研修全体の効果の関係をみている。
その結果、「FD研修等における教育方法等に関する意見交換会」や「FD研修等における教育方法等に関するワークショップ」について、年間実施回数が6回 以上の場合、教員はFD活動が役立っていると感じる点数が高くなる。一方で、意見交換会では、「実施していない」場合と「年間1回実施」の場合で教員の評 価に差はない。つまり、FD研修での意見交換会等は、1回開催すればよいというものではなく、ある程度の数を重ねて行うことで、その効果は増すことが分か る。
なお、年間実施回数が6回というのは、2学期制の場合、1学期につき3回(授業期間開始前、中間、授業期間終了後)実施と考えれば、少なくとも1回は授業 期間中にFD研修を行っていることを意味しているといえる。単に6回という回数が重要と考えるのではなく、授業期間中にもFD研修(教員の教育に関する意 見交換をする機会)が重要だと示しているといえる。授業が行われている期間にFD研修等を行うことは、研修等の内容をすぐに授業等にフィードバックするこ とができ、より効果的な取組になっていると推測される。
ただし、教員の教育活動への関心や参加意欲を高めることは、教育改革の最初の難関であり、非常に難しいことでもある。本調査のヒアリング事例では、FD研修会について、例えば、教授会等の教員が集まる機会にあわせて行うことで教員の参加率を高めていた。
・教員間や学部間でのコミュニケーションを伴う教育改革の取組が、教育改革の効果が表れやすい。 ・「授業が行われている期間」に意見交換会やワークショップなど教員間のやり取りの場を設けることが、FD活動の効果を高める。 |
どのような大学が、大学教育改革を推進させているのかについて、2つの分析から考察を行った。その結果、いずれの分析でも、教職員間のコミュニケーションを促進する取組を行うことで、大学教育改革の取組効果が高まっていた。
大学教育改革を推進するためには、トップダウンで仕組みを構築するだけでなく、教員同士が教育について話し合う機会を創出することが重要といえる。
もう1つが、「アクティブラーニング・PBL」や「課程外でのキャリア教育」など『学生の能動的な参加』を必要とする取組である。特に、「アクティブラーニング・PBL」は、就職率の向上に強いプラスの効果を与えている。