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統計でみる芸術家・クリエイターの姿

地域活性化や都市開発におけるクリエイティブシティ(創造都市)、産業振興におけるクリエイティブ産業、人材活用におけるクリエイティブクラスなど、あらゆる分野において文化芸術やクリエイティビティに対する注目が集まっている。

本稿では、こうしたクリエイティビティを活用した取り組みの中心をなす芸術家・クリエイターについて、データの面から実態を把握したい。国勢調査(平成17年)を用いて、芸術家・クリエイターの実態を定量的に明らかにする。国勢調査の職種分類のうち、芸術家・クリエイターに該当する職種(「文芸家,著述家」「記者,編集者」「彫刻家,画家,工芸美術家」「デザイナー」「写真家」「音楽家」「俳優,舞踊家,演芸家」)[1]のデータを用いて、分析を試みた。


[1] なお、総務省統計局「日本の長期時系列」第26章 文化・レジャーでは、「芸術家の人数」として、「文芸家,著述家」「記者,編集者」「彫刻家,画家,工芸美術家」「デザイナー」「写真家」「音楽家」「俳優,舞踊家,演芸家」「個人教師(他に分類されないもの)」「職業スポーツ従事者」の人数を紹介している。本稿では、ここから「個人教師(他に分類されないもの)」「職業スポーツ従事者」をはずした職種を(「デザイナー」等が含まれていることから)、芸術家・クリエイターと定義して扱っている。

日本には、約60万人の芸術家・クリエイターが存在

国勢調査によると、日本には、現在、約60万人の芸術家・クリエイターが存在している。これは、日本の就業者総数の約1%にあたる。すなわち、働いている人の100人に1人が、芸術家・クリエイターという計算となる。

図表1 芸術家・クリエイターの人数
図表1
[出所]総務省「国勢調査(2005)」より作成

職種別に細かく見ると、「デザイナー」(約16万人)、「音楽家」(約11万人)が多い。時系列でみると、「デザイナー」は、特に1975年から1990年の間に倍増していることがわかる。

図表2 芸術家・クリエイターの人数(時系列)
図表2
[出所]総務省「国勢調査」より作成

若者が多い「デザイナー」「俳優,舞踊家,演芸家」、中高年が多い「文芸家,著述家」「彫刻家,画家,工芸美術家」

次に、芸術家・クリエイターの年齢構成をみてみよう。「デザイナー」「俳優,舞踊家,演芸家」において、39歳以下の割合が高く、比較的若い層が多いといえる。一方で、人数の少ない「文芸家,著述家」「彫刻家,画家,工芸美術家」は、若い層の人数が少ない一方、60歳以上が2割以上となっている。

図表3 芸術家・クリエイターの年齢構成比
図表3
[出所]総務省「国勢調査(2005)」より作成

次に、芸術家・クリエイターの働き方をみてみよう。芸術家・クリエイターの就業形態をみてみると、その多くが出版社・新聞社等に所属していると考えられる「記者,編集者」を除いて、雇用者以外の比率が高くなっている。

その中でも、年齢構成の高かった「文芸家,著述家」「彫刻家,画家,工芸美術家」は雇用者以外が8割を超えている。一方で、年齢構成の低い「デザイナー」「俳優,舞踊家,演芸家」は、雇用者(すなわち何らかの組織に属している職業人)の割合が6割程度と比較的高い。

この結果は、先ほどみた年齢構成と関係すると考えられる。すなわち、世の中に就職先(所属先)が存在する「デザイナー」「俳優,舞踊家,演芸家」等の職種は、比較的若いうちからなることができる。一方で、就職先(所属先)が存在せず、フリーで仕事をしなければならない「文芸家,著述家」「彫刻家,画家,工芸美術家」は、若いうちからその職につくのは難しいのではないだろうか。

図表4 芸術家・クリエイターの就業形態
図表4
[出所]総務省「国勢調査(2005)」より作成

活躍の場が多岐にわたる「デザイナー」

次に、「デザイナー」について業種をみてみる。最も多いのは、デザイン業(工業デザイン、テキスタイルデザイン、クラフトデザイン、パッケージデザイン、インテリアデザイン、商業デザイン、服飾デザイン等)である。

この他、広告業、情報関連、印刷・出版関連、建設関連、服飾関連など多岐にわたる。特に、広告関連や情報関連業種での「デザイナー」の活躍が、1975年以降の「デザイナー」の増加に影響していると考えられる。

また、“その他”“他に分類されない”とつく業種が多いのも特徴といえる。「デザイナー」の活躍の場は、従来の産業分類の枠では収まらない新しい分野での活躍が多くなっていることの表れといえよう。

図表5 デザイナーの所属する業種(上位15業種)
図表5
[出所]総務省「国勢調査(2005)」より作成

芸術家・クリエイターの半数が、首都圏に集中

最後に、芸術家・クリエイターの居住地をみてみよう。職種別に、居住都道府県の構成比をみた。その結果、芸術家・クリエイターの3割弱が東京都に居住している。就業者全体では東京の比率は1割弱であり、労働市場全体の3倍の集中度で芸術家・クリエイターは東京都に居住していることがわかる。

範囲を広げて首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)でみると、約半数の芸術家・クリエイターが存在していることになる。特に、「文芸家,著述家」では7割が、首都圏に居住している。この他、「デザイナー」は、大阪府に1割程度存在する。また「音楽家」は、比較的、各都道府県に存在し、集中度が低い。 いわゆるクリエイティブ産業は、東京都を中心とする首都圏に集積している。すなわち、芸術家・クリエイターの労働・活躍の場の集積が、そのまま人材の集積に結び付いているといえる。首都圏以外の地域においての芸術文化振興や、創造都市などクリエイティビティを活用した地域振興を行う際に、この芸術家・クリエイターの一極集中が課題となるといえる。

図表6 芸術家・クリエイターの都道府県構成比
図表6
※就業者全体の構成比より高い値には網掛け
[出所]総務省「国勢調査(2005)」より作成

まとめ

国勢調査によって芸術家・クリエイターの実態をみると、日本には約60万人の芸術家・クリエイターが存在することが分かった。特に、「デザイナー」は若年層を中心に人数も多く、時系列でみて増加傾向にある。活躍の場(産業)も広く、雇用者としての働き方をしているものも多い。

一方で、芸術家・クリエイターは首都圏に集中している。首都圏以外の地域において芸術文化振興や創造都市などの取り組みを行う際には、芸術家・クリエイターの獲得・育成が大きな課題になるといえる。

2011年6月24日
八田 (はったまこと)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。

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