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財政再建団体とは?

去る6月20日、北海道夕張市は財政再建団体の指定を国に申請する方針を表明しました。 夕張市は最盛期には24箇所の炭鉱で栄えたものの、1990年には最後の炭鉱が閉山し、最盛期には12万人に達した人口も1万3千人にまで減少してきたようです。 収入が先細る中で、産業構造の転換や観光振興等のために多額の出費を続け、それらが功を奏さなかったことが財政悪化の原因と思われます。 さて、この「財政再建団体」とはいったい何でしょうか?

企業の倒産との違い

企業では借入金が多くなって収入に対して返済額がかさみ、自転車操業のような状態から自力での回復が望めなくなると倒産することになります。 地方自治体も財政危機に陥った場合、何らかの対策が必要になるわけですが、自治体が企業と決定的に違うのは、どれだけ借金がかさんでも債務免除が認められない点にあります。

自治体が借金を返せないという事態が現実のものになれば、金融機関は次はどこか?と疑心暗鬼になり、地方債の利回りは急上昇することになるでしょう。 そうなれば苦しい財政事情にあえぐ他の地方自治体にとってさらなる打撃となり、それがまた次の破綻を招くことになります。 そうなれば国債に対する信用さえも揺らぎ、日本という国そのものが危機にさらされることになるかもしれませんから、借金棒引きはとりたくても決してとれない手段ということになります。 結局、国の管理、都道府県の指導の下で、支援を受けながら何とか返済していくしかないわけで、自治体への貸付には「国による暗黙の保障」があるといわれるゆえんです。

財政再建団体制度

財政再建団体制度は、そもそも朝鮮戦争終結後の不況によって8割もの地方自治体が赤字となったことに端を発し、昭和30年度に定められた「地方財政再建促進特別措置法」(以下、「再建法」)に基づく制度です。 厳密にいえば、この制度に基づく「財政再建団体」とは昭和29年度に赤字だった自治体であり、昭和45年度には全て再建を完了しています。 以降のものは再建法第22条の規定を準用して財政再建を行う「準用財政再建団体」ということになります。

赤字になった団体、具体的には実質収支比率(注1)が都道府県では5%、市町村では20%以上となった場合、議会の議決を経た財政再建計画を策定し、総務大臣の承認を受けないと地方債の発行が災害復旧事業など一部の例外を除いて制限されます。 この状況に陥ってもなお自力再建という手段もあるにはありますが、国からの支援も受けられず、行政サービスが著しく制限されますので、必然的に準用再建の道を選ぶことになります(準用再建の申請自体は基準となる赤字比率を超えなくても可能です)。

制度適用の影響

総務大臣が承認し、財政再建団体になった場合、地方自治体は国の指導・監督の下で「財政再建計画」を策定し歳入・歳出の両面にわたって厳しい見直しが求められます。 具体的にどの事業をどの程度の水準で見直す必要があるかは、赤字幅などによって異なりますが、大きくいえば「提供するサービスは最低レベル、住民負担は最高レベル」ということになります。

歳入面では住民税や固定資産税など地方税の税率が引き上げられるほか、各種証明手数料や保育料、公共施設利用料などは地域内または類似団体の最も高い額に合わせて引き上げることになります。 また、歳出面では、人件費の削減、自治体が独自に実施している事業の廃止、各種団体へ交付する補助金の削減が行われ、環境、福祉、教育などの事業は地域内または類似団体の最も低い水準に合わせることになります。 将来に向けた都市基盤の整備や学校施設、道路など市民生活に欠くことのできない施設・設備の改修・整備についても計画的に実施できなくなるほか、毎年の予算も「再建計画」の範囲内で編成するため、補正予算の編成は「再建計画」の変更を伴いますから、その都度、国・都道府県の同意が必要になります。 つまり、地方自治体として主体的に運営を行うことは事実上不可能になるといってよいでしょう。

一時借入金・隠れ借金で積もる債務。責任の所在は

ここで夕張市に話を戻すと、同市では600億円を超える巨額の負債を抱えているとされており、約45億円である標準財政規模(注2)の14倍にも達しているとのことです。 一般の市民が年収の14倍もの借金をすると考えると大変なことです。 先述のとおり財政再建団体となっても債務免除はありませんから、完済まで何年かかるか想像もつかない非常に深刻な状況に陥ってしまっているといえます。

ここまで負債が膨らんだ理由に一時借入金(注3)の存在が挙げられています。 地方の代表的な借金である地方債は、発行や償還、残高は制度上しっかりと国により把握・管理されています。 一方、一時借入金は税収の確定時期と入金の時期がずれた際等に当座の資金繰りのために金融機関から受ける短期の融資であり、年度内に返済する前提のものなので予算書や決算書には記載されません。 その上、地方財政法上では年度をまたいで一時借入金、短期資金を借りられないのですが、自治体に認められた出納整理制度により3月から5月の期間中に借り換えると、年度末の残高は帳簿上ゼロにできてしまいます。 こうした制度上の不備もあり、国、北海道が事態を把握するのが遅れ、借金がさらに膨れ上がったものと思われます。

とはいえ、こうした一時借入金、さらには普通会計の赤字を公営事業や第三セクター等との複雑な経理操作で付け替える「隠れ借金」の存在もあり、夕張市の例は氷山の一角にすぎず、地方自治体の財政状況の悪化は特定の市町村や地域に限った話ではないといわれています。 バブル景気の頃に分不相応な役場や公民館に建て替えたり、スキー場などリゾート施設を買い取ったり、その後の景気低迷で公共事業に巨額を費やした(背景には国の要請もありましたが)自治体は珍しくありません。 そうして抱えた借金は、少子高齢化の進展、地方税の減収、地方交付税の交付金の削減などますます苦しくなっていく歳入をやりくりして返済していかなければならないのです。

総務省も地方自治体の一時借入金の実態の把握に乗り出しているようですが、自治体がひた隠しにし、積もりに積もった債務はにわかに返済することなど不可能です。 破綻した自治体財政を再建するのは容易ではなく、公共サービスの低下や負担の増加など、そのしわ寄せは住民生活にも及びます。 「財政再建団体」という言葉からはそんなニュアンスが感じ取れませんが、少なくとも財政破綻に至った経緯と責任の所在を徹底的に明らかにした上でなければ、住民の理解と協力は得られるはずがないといえるでしょう。

2006年7月21日
萱園 理 (かやその・おさむ)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。

形式収支 : 決算における歳入歳出の単純な差引額。
形式収支 = 歳入決算総額 − 歳入決算総額

実質収支 : 形式収支から何らかの理由によって翌年度へ繰り越した支出に見合う財源を控除した額。翌年度への純繰越金であり、主にこの額で自治体の赤字黒字が判断される。
実質収支 = 形式収支 − 翌年度へ繰り越すべき財源

実質収支比率 (注1) : 地方公共団体の標準財政規模に対して実質収支がどの程度かを示す指標であり、実質収支が黒字の場合の比率は正数、赤字の場合は負数で表される。
実質収支比率 = 実質収支額 ÷ 標準財政規模 × 100

一般財源 : 地方税、地方譲与税、地方交付税、地方特例交付金など、使途が特定されず、どのような経費にも使用することができる財源。

経常一般財源 : 地方税や普通交付税など、一般財源のうち毎年度連続して固定的に収入されるもの。

標準財政規模 (注2) : 地方公共団体の標準的な状態で収入されると見込まれる経常一般財源の規模を示すもの。

一時借入金 (注3) : 臨時の資金不足を補うのが目的で、その年度内の歳入で金利を含め全額返済するのが原則。決算書には借入金本体の額は載らないが、利子分は純支出として計上され、総務省が毎年まとめる全国自治体の「決算状況調」にも記載される。

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