株式会社リベルタス・コンサルティング

ネット調査とユーザーリテラシー

ネット調査にもいくつかの形態がありますが、ネット調査会社が抱える調査モニターに対して、主に電子メールによる調査告知を行い、Web上でアンケートに回答させるというものが最も標準的なモデルです。 事業の詳細は各社ホームページで確認できます。

「母集団の代表性」(後述)などの観点から、サービス開始当初はその有効性が疑問視されていたネット調査ですが、そのスピード面、コスト面などでの優位性から、市場は着実に成長してきたというのが現状までの大まかな推移でしょう。

弊社メンバーはシンクタンク業務を通じて、自らアンケート調査を企画したり、アンケート調査の委託を受けたりする中で、ネット調査を活用してきましたが、ネット調査に対するユーザー(クライアント)リテラシーはまだまだ十分ではないと認識しています。そこで今回は、ネット調査の有効な活用法を考えてみます。

ネット調査の長短所

ネット調査の特徴を明らかにするため、代表的な調査手法である電話調査と郵送アンケート調査と、調査方法を比較してみました(下表)。また、これまでの利用経験から、ネット調査の特徴を下記5点に集約しました。

調査方法間の比較
電話調査郵送アンケート調査ネット調査
母集団の代表性 電話帳掲載率の低下、
携帯電話の普及などから
代表性が低下中
従来は住基台帳の代表性が
最も高かったが、個人情報
保護の下、台帳利用が制限
され、代表性が低下中
調査モニターはインターネット
ユーザーに限られ、サンプルに
バイアスがかかっている
スピード(納期)数日〜1週間程度2〜3週間程度数時間〜数日程度
コスト 電話調査員の人件費
負担が大きい
郵送費、データ入力費
等を要する
人件費が少ないため
比較的安価
質問・表現の
自由度
オーラルコミュニケー
ションによる柔軟な表現、
対応が可能
画像を用いた設問が可能 画像や動画などを用いた
設問が可能
インセンティブ自発的自発的
(謝礼同封もあり)
ポイント
(自発的の場合もあり)

ポイント取得がインセンティブの「モニター調査」

基本的には、ネット調査各社に登録した調査モニターを対象とするモニター調査です。インターネット普及率がまだ低かった時代から、ネット調査の母集団(調査対象の条件に該当する個人、世帯、事業所などの集まり)が現実社会の縮図となっているのかどうかという「代表性」を疑問視する議論がなされてきました。 インターネット利用率の増加やモニター数の多さなどを根拠に、今日ではモニターの母集団代表性をうたう調査会社もありますが、モニターにはインターネットユーザが多い、男性が多い、若年層が多いなどのバイアスがかかっている点には留意しておくことが必要です(注1)。 ネット調査各社は、むしろ、あらかじめモニターの属性が判明している、調査協力度が高いなど、モニター調査ならではの利点を強調するべきでしょう。

また、モニターはただで回答してくれるわけではありません。回答により得られるポイントを貯めて、商品やサービスなどと換えることが回答者のインセンティブとなっています(謝礼つきのアンケート調査と同じです)。

(注1)ただし、近年では固定電話を持たなかったり、電話帳登録を行わなかったりする人が増えていること、調査目的に住民基本台帳を利用することが制限されたことなどから、電話調査や郵送調査の「代表性」も低下してきています。

高スピード、やや低コスト

ネット調査は短期間に低コストで実施できることが魅力です。特にスピードという観点では、郵送や電話などのメディアを活用した調査の納期期間が数週間単位だったのに対して、ネット調査では数日単位となりました。インターネットの強みが最も明確に現れるところです。

コストは、従来人手を介していた部分(電話応対、データ入力など)がコスト安となり、比較的安価になりました。ただ、電話調査や郵送調査と比べると、ネット調査を行う事業者数は少なく、競争も限定的であるため、それなりの料金はかかります。

自由回答記入率が非常に高い

心理学的にも説明できるようですが、経験的にもネット調査の自由回答記入率は顕著に高いと言えます。調査内容にもよりますが、感覚的には回答者の6〜8割が何らかの自由回答記述を行っているのではないでしょうか。自由回答による幅広いアイデア収集を求めてネット調査を活用するクライアントもいるほどです(注2)

(注2)このようなユーザーニーズを踏まえて、オンライン座談会などのサービスを提供する企業もあります。

マイノリティ層に対する調査が容易

急激に変化する経済社会状況の中、これらの先端的な変化の動向自体を調査対象とすることも多くなっています。例えば、「秋葉系」や「ニート」などの必ずしもマジョリティとは言えない特定層を対象とした調査が増えているのですが、このような対象には電話調査や郵送調査では極めてヒット率が低く、コスト高となってしまいます。モニター属性があらかじめわかっているネット調査では、あらかじめ調査対象を絞り込んだ上で調査をかけることができ、効率的です。また、高スピード、低価格というネット調査の利点を活かせば、「秋葉系」の定義を満たすか否かを判断する予備調査を行った上で、該当者だけに本調査を行うこともできます。

上記の特徴はIT分野には非常に親和性が高いのですが、一方でITとは遠い分野ではほとんど効力を発揮しません。例えば、高齢者のIT利用率の低さから、誰もが注目するシニアマーケットに対して、ネット調査は有効なソリューションを提示できていないのです。

ネット調査特有のサービスが有効なケースもある

それほど利用頻度は高くありませんが、画像などを用いて新しいサービスや仕組みの説明を行いながら、それについての意見を回答してもらうような調査においては、インターネットの親和性が非常に高くなります。 動画となると実質的にネット調査の独壇場になってしまうでしょう。また、リアルタイム集計もネット調査の特長を十分に活かしたサービスと言えます。

ネット調査の上手な活用法

つまり、「使い様」によっては、薬にも毒にもなる調査手法であり、それゆえに導入・拡大期にある現在、ユーザーのリテラシーが非常に重要なのです。

以下に、弊社メンバーがネット調査を利用する際に留意する事項の一部をご紹介します。

モニター調査と割り切った上での工夫

「ネット調査は、他の調査手法を代替するもの」との誤解から、早くて安いからネット調査を活用したいという要望がクライアントから寄せられることも少なくありません。実施する調査の趣旨や対象などと、ネット調査や他の調査手法の特性を勘案して調査方法を決定する必要があります。特に、行政機関などが行う、統計的な意味が重要となる調査においてネット調査の活用する際には、慎重な検討が必要でしょう。

また、ネット調査会社の選択の際には、モニターのメンテナンス(謝礼ポイントを狙ったなりすましの防止や不活性モニターの排除など)状況や、ネット調査だけではない、調査方法全般に関する知識を有した担当者の有無などがポイントの一つとなるでしょう。

料金体系を見比べる

ネット調査の料金体系はさまざまです。特に、回答者のクリックごとに課金する体系(複数回答3つまでの場合には3問と計算)を有する会社と、設問1問ごとに課金する会社では、同じ調査でも料金が相当変わってくる場合があります。前者は前身がシステム系会社の場合に、後者は調査系会社の場合に採られやすい料金体系ではないかと思います。お気に入りのネット調査会社いくつに対して、調査ごとに合見積もりを取ると意外と価格差があるのに驚かされます(注3)

(注3)一方、ネット調査会社は、会員登録をしたユーザー向けにさまざまな特典サービスを用意して、顧客の囲い込みを図っています。

自由回答を見過ごさない

ネット調査には、驚くほど多くの自由回答が寄せられます。一方、これらの意見を十分に活用できずに、調査を済ませているユーザーも少なくありません。最近では、ネット調査会社側もテキストマイニングツールを利用して、頻出語句などを統計的手法によりグループ化したり関連付けたりするサービスなどを提供していますが、テキストマイニングツール自体が高価なこともあり、こなれた費用水準とはなっていません。

意見の内容を分類した上で属性情報とのクロス集計を行ったり、あらかじめ想定したキーワードの出現回数を数えたりするなどの作業を経ることで、興味深い傾向が出てくる場合もあります。

集計・分析は内製化する

ネット調査会社は、調査の実施(告知、調査、データ収集)のみならず、集計やグラフ作成、分析などのサービスも提供することで、調査の「ワンストップサービス」化を進めています。これらは便利なサービスですが、分析やレポート作成などの人手を介する業務などまでアウトソーシングするとそれなりの費用になります。

我々のように頻繁に調査を実施する部門では、集計・分析・レポーティングなどの機能を内製化・自動化し、できるだけローデータでの納品にとどめ、コストダウンを図る工夫を行っています。

今後のネット調査への期待

さまざまなメリット・デメリットがありますが、ネット調査の出現はリサーチ産業にとって非常に重要な出来事であり、今後も市場を拡大していくことは確実でしょう。それに伴い、ネット調査に対するユーザーリテラシーもますます重要になっていくのです。

また、現在のネット調査は主に個人を対象とした調査に用いられています。モニターの構築、メンテなど、非常にハードルは高いのですが、ネット調査が事業所・企業調査にも対応するとしたら、その市場は大きく跳ね上がることは間違いなく、業界も期待するところです。

2005年12月9日
中野 浩介 (なかの・こうすけ)
※本稿は執筆者の個人的見解であり、弊社の公式見解を示すものではありません。
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